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埼玉医大国際医療センター精神腫瘍科診療部長・大西秀樹さんの講演「がん患者さん・家族の心理的社会的支援の必要性」を聞く

がん患者遺族の治療とケアを行う「遺族外来」を、ご存じでしょうか。わが国で最初に開設された埼玉医科大学医学部精神医学教授で、埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍科診療部長・教授の大西秀樹さんに、製薬メーカーの武田薬品工業が主催したオンコロジーメディアセミナーでお会いしました。
講演する埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科診療部長・教授の大西秀樹さん

 講師として招聘されたのは、大西さんと国立がん研究センター東病院 サポーティブケアセンター 副サポーティブケアセンター長の坂本はと恵さん。コーディネーター役には、一般社団法人全国がん患者団体連合会(全がん連)理事長の天野慎介さんが担当。この日のテーマは、『がんになっても“誰一人取り残されない社会”を作るために〜がん患者さんとご家族への心理的・社会的支援を考える』。そこで、我が国で初めて『遺族外来』を開設された大西さんの講演内容を紹介しましょう。

 日本グリーフ&ビリーブメント学会、日本臨床死生学会代表理事として活躍する傍ら、『がん患者の心を救う』(河出書房新社)、『遺族外来』(同)をはじめ多くの書を執筆してきた大西さんは、『がん患者さん・ご家族の 心理社会的支援の必要性』と題し、「がんは死亡原因の1位。患者が即イメージすることといえば死。そして仕事や家庭はこれからどうなるのかといったストレスの蓄積が精神疾患の引き金になる。それほどに、がんの診断を受けることは人生における最大のストレス…」と指摘。

 大西さんは、100人のがん患者さんを診断すると精神科診断がつくのは約半数であることを紹介し、ではなぜ精神症状へ対応するのか。精神症状は苦痛であることに加えて意思決定に影響が出てくること。例えば乳がん患者さんが、術後に化学療法を受ける割合は、抑うつありが52%存在し、精神状態により治療決定が異なり、『治療止めたいです』は、もしかしたらうつ病かもしれない」として、がん患者さんのうつ病に気づくポイントを次のように挙げました。  

 乳がんの抗がん剤治療中、眠れない、気分が滅入る、意欲が低下、倦怠感、食欲不振を訴える場合、もう少し質問をして「実はうつ病」と見て、うつ病の治療で身体症状が改善することを報告するとともに、苦痛を伴う精神症状、意思決定に影響が出てくることのほかに自殺率の上昇(一般人口よりも高く、診断後1週間以内の自殺率が高く、日本では診断1年以内に23.9%、診断1年後の場合は有意な危険性の上昇はない)、そして家族の精神的苦痛も紹介。  

 「家族の精神的な改善は円滑な治療に欠かせない」と話す大西さんは、家族のケアの重要性にも触れ、ではなぜ必要なのかについては、精神面では抑うつが10〜50%、一方、身体面では不眠、心疾患、ビタミンB1欠乏によるせん妄、社会面では失業率、貯蓄減少が考えられること。加えて、がん患者さんの家族の健康面では、がん経験者が4%存在するなど病気の場合もあることから、大西さんは、がん患者遺族の治療とケアを行う『遺族外来』を開設したことを明らかにしました。  

 インフォームドコンセントやセカンドオピニオンといったことは知られていても、『遺族外来』の存在は、これからさらに広がって欲しいと率直に思いました。患者さんはもちろんですが家族が抱える悩みは多く、両親をがんで亡くした一人として、家族が即相談に訪れる外来の存在は、どれだけ患者さんと家族のケアのサポートになるか。大西さんをはじめ多くのスタッフの方々の活躍に期待しています。 (レポート・山本武道

 
 
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