難病を抱えたこどもとその家族がともに楽しいひと時を過ごせる
『横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち』を運営する
横浜こどもホスピスプロジェクト代表理事の田川尚登さんに聞きました
『横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち』は、病気とともにあるこどもと家族の「別荘みたいなおうち」。白い天井の代わりに、青い空を蛍光灯の代わりに、お日さまを感じながら家族に一緒におしゃべりしたり遊んだり、海を感じるお風呂に入ったり、家族で楽しい思い出を、たくさん作ってほしいと願っています―こんな思いで作られたこどもホスピスにお邪魔しました。このようなホスピスは、未だ全国に2か所ですが、その一つ『横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち』は、難病を抱えたこどもとその家族がともに楽しいひと時を過ごすことができる、とても暖かい場所でした。そこで、運営するNPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト代表理事の田川尚登さんに、こどもホスピスに対する思いのほどを語っていただきました。 (取材と文:山本武道)
代表理事の田川尚登さん
『横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち』は、海からほど近い川に面した一角に、2021年11月にオープンしました。京浜急行の金沢八景駅から徒歩15分。いくつかの店で、ホスピスへの道を聞いたところ、「あ~こどもホスピスね」と、どの店の人たちも場所を知っていて、ていねいに教えていただきました。川にかかる橋から、さんさんと照る温かい日差しを浴びた玄関口で出迎えていただいたのは、スタッフと田川さん。
施設の1階スペースは交流エリア。利用者の家族同士が触れある場所としてだけではなく、地域のコミュニティの場としても提供し、こどもと家族が触れ合い、交流するスペースでもあります。2階は、利用者がゆったりとくつろげる居室が用意されていて、子どもを介護する人の負担を軽減するための天井走行リフトのある部屋や、こどもを添い寝できるソファベッド、ミニキッチンや入浴施設も設備されていました。
この日は30度を超す猛暑日ではありましたが、田川さんをはじめスタッフからは、このホスピスに対する思いれのほどがヒシヒシと伝わり、本当に温もりのある心のこもった施設を取材した私の心も温かくなりました。
―こどもホスピスの活動を始められたきっかけは? 「6歳の娘が脳幹の脳腫瘍にかかり、当時、治療は放射線で患部を小さくするだけで、効果のある治療薬もできておらず、手術もできない状態で亡くしたことが直接のきっかけです。そして、2011年ごろでしたが、子どもホスピスに関するイギリスの報告会に参加する機会があり、イギリスに子どもホスピスが存在することを知り、日本にも同様な施設があったら、もっと子供との闘病生活が楽しめるものがあったらと思ったことも、活動する大きな要因でもありました」
―『横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち』は、いつ開所したのですか? 「2021年11月21日、落成と合わせて開所しました。この日に完成したのは、こどもたちにとって楽しいクリスマスに間に合わせるようにしたかったからです。この土地は220坪のスペースがあり、無償で借りることができました。少しでも楽しい時間を、家族がこどもと一緒に過ごすことができればとの願いを込めて活動しています」
―日本では、こどもホスピスの現状は? 「こどもホスピスの存在は世界的には広がってはいますが、日本にはコミュミニティ型のこどもホスピスは大阪と私たちの横浜の2か所しかありません。国にも、こどもホスピスに関わる窓口はありません。厚労省にも窓口がなくて,2023年にはこども家庭庁の設置が予定されるなかで、窓口ができるであろうといわれていますが・・・。ですから、ちょうどわれわれが関わっているのは、全国に約2万人といわれる小児がんとか心疾患とか神経難病等々、難しい病気のこどもと家族を支える在宅支援施設的な場所なんですが、たとえばイギリスでは子どもホスピスは中核都市にあって、国からの費用ではなく地域の寄附で支えられて運営されています。
ところが日本では、まだ窓口がないなかで、子どもホスピスを進めていくにはハードルが高くて、土地と建物をすべて自分たちで賄わなければならない状況にあります。幸いここは横浜市から土地を無償でお借りすることができましたが、建物の建設費は自分たちで寄附を募り集めました。大切なことは、こうした家族を地域で支えていくことです。そうした流れができてほしいですね」
『横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち』
―現在、どのくらいの家族が『横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち』を利用されているのですか? 今は、30家族ほどが、何度も何度もリピートされて来所されています。延べ数にすると600人ほどになりますでしょうか。1家族が、子どもさんと両親、それにおじいちゃんとおばあちゃんが来られれば人数は増えますし、親戚も参加してここで誕生日会を開いたり、それぞれの家族によって利用法は違いますが、楽しく過ごしていただければ・・・。コロナ禍でありますが、ここは家族がOKであれば利用はお断りしていません。
まだ私たちの施設の存在は、あまり知られていません。マスコミの方々に取材に来ていただいていますが、これから私たちの存在を一人でも多くの方々に知っていただければと思っています。ぜひご協力ください」
<取材を終えて>真っ青な空に緑、そして2階建ての建物には、スタッフたちの優しい心と愛がある『横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち』。難病を抱えたこどもと親が楽しく過ごせる場が、そして地域に住む人たちも、ともに支えていく輪が広がっていくことを願っております。そのためにも、「週刊がん もっといい日」編集部では、こどもホスピスの存在を、全国の人々に知っていただく活動に取り組むことに致します。 ■『横浜こどもホsピス~うみとそらのおうち』について https://childrenshospice.yokohama/ych/index.html ■『横浜こどもホスピス~うみとそらのおうちができるまでの動画』https://childrenshospice.yokohama/ych/institution.html