在宅医療最前線で活躍されるドクターのこと
いろいろと学ぶことの多い在宅医療最前線。ある日、訪問診療医と看護師さん、そして薬剤師さんと患者さん宅に訪問してこんなことがありました。
「今日は顔色いいね」「それはねえ、先生が来られるからよ。待っていたのよ」「おばあちゃんたら、たまにはお化粧しなくちゃねって、まるで恋人を待っているかのようでしたよ」もちろん患者さん宅へ訪問するには、ドクターを通じ患者さんとご家族の了解を取ることはもちろんですが、とにかく、こうしたやりとりを見ると、本当に心が和みます。
在宅医療最前線で活躍されるドクターは、日常の診療活動で何人か患者さん宅を往診しなくてはなりませんが、大体、患者さん宅に約束した訪問時間に遅れるケースは少なくありません。その理由は、患者さん宅では少しでも長くドクターと話をしていたいから、お茶を持ってきたりお菓子を持ってきて、しかもいろいろとドクターに質問をしたりして、「じゃーね」といいつつも、つい時間が長引いてしまうからです。
ドクターが患者さん宅を訪れたときの患者さんの笑顔、そして診療を終えたときにも、元気を取り戻して笑顔・・・。そういえば私の母が、主治医と会いに行く姿は、本当に恋人に会いに行くようでした。化粧をして、着るものも何着か取り出し何度も鏡を見ていましたから・・・。
ある日のことでした。母は朝から具合が悪そうで、何度も「今日は病院に行くのをやめたら」と話しましたが、「でも行く」といって、人生の終焉を迎える数か月前まで、休むことはありませんでした。それは、待合室で出逢い仲良くなった“患者友”との楽しい会話、そして主治医との数分の会話が、自分のよりどころだったのです。その日、母の体調がすぐれないので、付き添って病院に行きましたが、病院の待合室に着いたとたんに、母はすぐソファーに横なってしまい顔色も青白く元気がありませんでしたが、待つこと1時間余り、名前を呼ばれて診察室に入り主治医の顔を見たとたん、母の顔はたちまち、ほんのりと赤くなり、いつもの元気を取り戻していました。
何度もがんを患った母でしたが、信頼する医師との交流は、何にも代えがたいものであったに違いありません。30歳半ばで子宮がんを患ってから50数年に及ぶ、がんと共生してきた母は、長生きの秘訣をこういっていました。一つは良いお医者様との出逢い、一日三度の食事、家族との絆を大切に、友達を作ること・・・ごく当たり前のことを続けて88歳まで生きました。
「あんた、病院から出された食事は、栄養士さんたちが私たちのために作っていただいたのだから、ちゃんと食べなくちゃだめよ」―母は自身が入院中、同室の患者さんたちに“おせっかい”をやいていました。食べることが基本中の基本だった母を、私も見習いたいと思っています。 (山本武道記)